冬季アラスカ自転車縦断企画


班員

浅田奏一郎(班長)(農・4回生)

黒井雄喜(法・5回生)

山碕翼(理・3回生)

世一嘉偉(工・2回生)



初めに

今回のツアーを行うにあたって、mont-bell社様から支援を賜りました。この場を借りて御礼申し上げます。




活動内容

 冬のアラスカを自転車でツーリングします。Anchorageから北極海に面する町Deadhorseへ至る約1500kmの道のりを走破します。極低温かつ補給可能地が限られた条件下で、食料・燃料を自転車に積み、自炊やテント泊をしながら進みます。

 今年で創部52年目を迎える京大サイクリング部では、毎年、長期休みに限らず国内外様々な地域でのツアーが企画・実施されています。北海道・東北・信州の山岳地帯における冬季ツアーは一般的であり、寒冷地におけるツアーでの装備やメカトラブル対処等に関するノウハウが蓄積されています。しかしながら、冬季極地等、-40℃を下回るような極寒地でのツーリングにおける、服装、テント内行動や自転車部品、食事や荷物積載などのノウハウは、2020年冬季シベリアツーリング等の実例から多少の知見は得られているものの、未だ発展途上です。

 今回のツアーを通して、極寒地におけるサイクリングに関して、新たな知識・経験を得ることを目的とします。また、そうして得られた知見が部、さらにはサイクリングを楽しむ全ての人へと還元され、将来、極地におけるサイクリングの企画及び実現の一助となると共に、サイクリングの持つ新たな可能性を発見・開拓することが出来れば幸いです。



行程

前半 Anchorage→Fairbanks 約700km 約12日

https://ridewithgps.com/routes/45467930

後半 Fairbanks→Deadhorse 約800km 約18日

https://ridewithgps.com/routes/44203480

北極圏に入る。アティガン峠(標高1444m)で大陸分水嶺のブルックス山脈を越える。北極海へ面する町へと到達する。



日程

前半

2/12 Anchorage International Airport到着

2/15 Anchorage出発

2/20 Glennallen(289km地点)到着

2/24 Delta Junction(530km地点)到着

2/26 Fairbanks(700km地点)到着、燃料・食料の補給、Coldfootへ燃料・食料の一部を郵送

後半

3/2 Fairbanks出発

3/5 Yukon river camp(218km地点)到着

3/11 Coldfoot(412km地点)到着、燃料・食料回収

3/19 Deadhorse(800km地点)到着 Anchorageへ帰還(飛行機もしくはトラック)

3/23 Anchorage International Airport出発



装備

全体装備

食事

・ガソリンストーブ(MSR International Whisperlight)(2台)

・ガソリンボトル(計11本約8Ⅼ分)

・ガソリン(日数分)

・マッチ

・ライター

・スコップ(飲料水生成雪収集用)

・食料(日数分、詳細は後述)

・鍋大小1セット

・調味料

・おたま

・鍋敷き(テント下氷雪融解防止)


テント

・テント(ジュピタードーム6型)

・スノーフライ

・テントポール

・テント内照明


救急セット

・正露丸1瓶

・新ビオフェルミンS1瓶

・救急用テーピング(固定・伸縮)

・軟膏

・スポーツドリンク粉末(1L用)

・カイロ

・ファイアースターター

・エマージェンシーシート(2枚)

・熊スプレー

・裁縫セット


自転車関連

・六角レンチ

・モンキーレンチ

・チェーン切り

・携帯空気入れ(2台)

・スプロケット押さえ・外し

・BB工具

・ワイヤーカッター

・ニップル回し

・金属製タイヤレバー

・替えチューブ(5本)

・替えタイヤ(2本)

・ブレーキインナーケーブル(2本)

・シフトインナーケーブル(2本)

・パンク修理パッチ(多数)

・不凍グリス(SUPER LUBE)

・ダボ穴替えネジ(8本)

・ダクトテープ

・結束バンド

・ポリエステルロープ(3mm×20m)

・リチウム乾電池


その他

・コンパス

・紙地図

・温度計



個人装備(班員により一部異なる)

衣類(中心部にはドライレイヤーを、末端部には※VBL(後述)を採用)

<上半身・下半身>

L1 上下ドライレイヤーベーシック(finetrack)×2セット(行動時)

L2 上下ジオライン厚手(mont-bell)

もしくはスーパーメリノウール厚手(mont-bell)(行動時)(気温にあわせ選択)

L3 クリマプラスアクションワンピース(mont-bell)(行動時)

L4 トレイルアクションパーカ(上のみ)(mont-bell)(気温に合わせて)

L5 上下ストームクルーザー(mont-bell)(天候・気温に合わせて)

L6 ダウン類(安静時保温用)

さらに、小型ザックあるいはウエストポーチを身につけることで体幹部の体温を保持する。また、車からの視認性向上のため、蛍光ザックカバーまたは反射タスキを着用する。

<手>

L1アクリル手袋

L2インナーグローブ(2セット)

L3アウターグローブ(2セット)

L4ハンドルカバー(ポギー)

<足>

L1ドライレイヤーソックス(finetrack)もしくは ネオプレンソックス(Caravan)

L2厳冬期登山用靴下(2セット)

L3スノーブーツ(カリブー(SOREL))(断熱材を追加)

<顔・頭>

バラクラバ(口部分がメッシュ素材のもの)、スノーゴーグル、毛皮耳当て付き帽子


寝具

・VBL用ポリ袋×2

・シームレスダウンハガー800サーマルシーツ(mont-bell)

・シームレスダウンハガー800EXP. (mont-bell)

・ブリーズドライテックスリーピングカバーワイド(mont-bell)

・エクセロフトエアパッド180(mont-bell)

・銀マット


食事

・コッヘル(取っ手の金属部分を包装)

・スプーン・フォーク

・保温ボトル×2(金属部分を包装)


その他

・ヘッドライト(単3電池式)

・ウエストポーチ

・モバイルバッテリー・コード

・スマホ

・イヤホン

・カメラ(本体・バッテリー)

・筆記用具

・パスポート

・財布

・クレジットカード

・現金

・身分証明書

・学生証

・学割証

・歯ブラシ

・制汗シート

・リップクリーム

・ハンドクリーム


自転車・積載関連

・フロントバック

・フレームバック

・トップチューブバッグ

・ザック(リアキャリアに積載)

・ザックカバー

・フロントフォークケージ×2

・リアキャリア

・ボトルケージ×2

・ステムバッグ×2

・ハンドルバーミトン

・ボトル(補給食用)

・アーレンキー

・タイヤチューブ×2

・パンク修理パッチ(多数)

・替えタイヤ

・ミッシングリンク

・ブレーキパッド×2

・十徳ナイフ

・塩化ビニルパイプ×2(飛行機輪行時に両エンドに挟み変形を防ぐ)

・廃チューブ×1

・ダボ穴替えネジ×4



極低温環境への対策

<VBL>

 VBL とは「Vapor Barrier Liner」の略称で、アラスカなど極寒地で採用されている防寒システムです。 現在では多くの極地探検や 8000m 級登山、厳冬期のアルパインクライミングなどで用いられています。

 その仕組みは、ビニール手袋やネオプレンソックスを装着し皮膚表面の湿度を100%にすることで、発汗作用を抑え気化熱を発生させず、体温の低下を防ぐというものです。

 またVBLシステムを採用することで衣類やブーツ、シュラフが汗で濡れ、それが凍ることで保温性能が低下する問題も解決します。 使用するのは走行中の手足と就寝中の全身です。走行中の VBL は体温の過度な上昇を招くため全身では行わず、手足のみとしました。


<自転車>

・油圧ブレーキの機械式化(ブレーキオイル凍結対策)

・ワイヤーフルアウター化(付着した氷雪によるインナーワイヤー凍結防止)

・ヘッド・BB・両輪ハブ・シフト及びブレーキワイヤー内の不凍グリスへの交換(グリス凍結防止)

・スパイクタイヤ装着(凍結路面対策)

・走行中のライトには極低温対策としてリチウム乾電池使用のヘッドライト(特に風による冷却を防ぐため、電池入れが後方にある物)を採用

・ブレーキレバーの金属部分の包装(熱伝導率減少の為)


<食事>

 行動期間中の食事は、朝食・行動食(走行中)・夕食の三つに分けられます。

 食事メニューは、寒冷地サイクリスト達の前例を参考に、数回に渡る実際の調理・試食を通じた検討会の後、予行演習として行った国内雪山登山(1月南ア三伏峠・烏帽子岳)におけるテント内調理工程・調理時間・消費燃料量などの確認を経て決定しました。

 食事メニューを決定する上で特に注意したことは、

①栄養バランス(ツーリングのような比較的強度の低い長時間運動時にエネルギーとして必要となる炭水化物・脂質、主に筋肉の維持合成等に必要なタンパク質、適度な食物繊維、その他カルシウム・ビタミン各種など。)

②総熱量(体温保持とサイクリング活動のために、平常時に比べかなり多くの熱量を必要とすると考えられます。個人差もありますが、METs計算及び各人の過去のツアー経験等から具体的には1日5000〜6000kcal程度と推定しました。)

③食材重量(自転車で運搬するため重量は必要最低限に抑える必要があります。)

の三つです。

 以下に朝食と夕食の主なメニューを示します。


朝食(一人当たり)

・オートミール150g

・バター50g

・プロテイン20g

・ビタミン剤

・調味料(塩、コショウ、粉末醤油、粉末トマト、唐辛子粉末、味の素など)

総計

約220g (P:約36g F:約51g C:107g 食物繊維:9.2g)

約1050kcal


夕食(一人当たり)

・ペンネ250g

・バター75g

・チーズ25g

・豚バラ肉150g 

・乾燥マッシュルーム7.5g

・乾燥ニンニク5g

・コンソメ適量

・味の素適量

・唐辛子粉末適量

総計

約522.5g (P:約52g F:約124g C:約183g 食物繊維:16g)

約2060kcal


行動食

 一日あたり2000〜3000kcalを目安とし、主に炭水化物と脂質から成るものを予定しています。具体的なメニューは現地で食品を実際に見てから、利用できそうか判断して採用する予定です。



緊急時の対応について

 行動期間中は衛星電波など一部を除き、電波を通じた直接の連絡を取ることはできません。しかしながら、道中は一定数の交通量が見込まれるため、他力に頼ることにはなりますが何らかの方法で緊急の連絡を取ることは可能です。また、直接の連絡に比べてタイムラグが発生するため、それに対応したトラブルシューティングを班員内で共有しております。

 また、国内連絡担当を中心として、親族や大学など関係各所への連絡網を構築しております。緊急時の主たる国内連絡担当は田中俊之助(工・2回生)(kuccweb@gmail.com)です。以下に簡易的なフローを示しておきます。



おわりに

 今回のツアーを企画するにあたって、参考としたのが2020年の冬シベリアツアーで、実際に行った先輩部員と連絡をとり行程や装備に関する助言を頂きました。当時の防寒対策、体の動き、走行時に意識すること、寒冷地ならではのテント生活中の問題点、など非常に参考になりました。ありがとうございました。

 至らぬ点もあるかと思いますが、このような冒険的活動が出来る機会・環境に感謝し、出来る限りの準備を尽くして冬季アラスカツーリングに臨む所存です。また、このような冒険的活動に伴っては、往々にして現地で予想外の問題が発生することがありますが、そのような場合には、班員四人、時には現地の方々との話し合いを通じて、臨機応変にその時々で最善と思われる対処を施すことが重要であると考えています。それでは、安全第一で行って参ります。

2024年2月10日

文責 2024冬アラスカ班員一同